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広島高等裁判所 昭和34年(う)301号 判決 1960年10月25日

控訴人 原審検察官 杉本覚一

被告人 宇都英郎 弁護人 角田俊次郎

検察官 十河清行

主文

原判決を破棄する。

被告人を懲役四月及び罰金三万円に処する。

但し本裁判確定の日より二年間右懲役刑の執行を猶予する。

右罰金を完納することができないときは金三〇〇円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

押収に係る証第一九乃至第二二号の腕時計四個はこれを没収する。

被告人より金一一五、四四四円を追徴する。

理由

検察官の控訴の趣意は記録編綴の検事杉本覚一作成名義の控訴趣意書記載のとおりであるから、ここにこれを引用する。

これに対する当裁判所の判断は次のとおりである。

論旨は原判決には追徴に関する法令の適用を誤つた違法があるとし、本件については、被告人が他に譲渡した密輸時計の全部につきその価格相当額の合計したものを追徴すべきに拘らず、その没収した二四個の時計の価格を控除し残余のものについてのみ追徴したのは関税法の没収追徴に関する同法第一一八条の解釈適用を誤つたものであると云うにある。

そこで所論に鑑み記録を検討するに、所論摘示の各証拠によれば、原審が没収した証第一号の(イ)、(ロ)、第一七号の(イ)、(ロ)並びに証第二号乃至第一六号、第一八号の合計二〇個の時計が被告人の原判示第一の犯罪の組成貨物であり、更に同人より悪意の取得者たる清水正臣に転売され、後日清水栄(清水正臣の実父で正臣と共謀で被告人より右時計を買受けたもの)より広島税関支署に対し通告処分の履行として納付し、本件が原審に係属当時既に国庫に帰属していたものであること、又証第一九号乃至第二二号の各時計が被告人の原判示第二の犯罪組成貨物たる五個の時計の内の四個であり、同人より悪意取得者たる臼井悟郎に転売されたものを呉警察署において押収したものであること及び原審が前記二〇個及び四個の時計をそれぞれ没収し、これらの時計の価格については追徴を為さなかつたことはいずれも所論のとおりである。

そこでこの点についての原判決の当否を判断するに、関税法第一一八条によると、同法第一〇九条乃至第一一一条までの犯罪に係る貨物その他供用の船舶若くは航空機又は第一一二条の犯罪に係る貨物は第一一八条第一項一、二号の例外の場合を除いては犯人の所有であると否とを問わず又受益の有無、大小に拘らず総てこれを没収し、目的物の滅失又は第三者の善意取得等により没収出来ないときは価格相当額を追徴するのであつて、このことは、かかつて一に関税法違反の所為を厳重取締ると共にその没収追徴の峻厳苛烈であることを一般に警告し、同法違反の所為を未然に防止し、国家の関税収入の適正確保を図らんとするの趣旨に出でたものに外ならないものと言い得るのである。従つて右の法意よりすると、密輸入貨物の第一の故買者たる被告人がこれを第二の故買者に対し譲渡した本件の場合においても該貨物が悪意の取得者の手中に存在する限り、これを没収し得べきものであつて、原判決が被告人から故買した臼井悟郎より押収し、本件の証拠に提出された原判示第二の犯罪組成貨物たる証第一九乃至第二二号の時計四個につき、その所有権が同人にあるにかかわらず被告人よりこれを没収したことはこの理によつて首肯し得られるところであり、もとより相当の措置というべきである。して見れば関税法第一一八条第一項の規定に従い没収をする以上、もはや没収に代るべき追徴を云々する余地はないものと云わねばならない。しかしその余の前掲二〇個の時計は前に述べた如く、被告人より故買した清水正臣、同栄が広島税関支署長の通告処分の履行として同税関に納付し既に国庫に帰属していることが明かであるから、更にこれをその前段階の譲渡人たる被告人より没収すると云うことは違法であつて、この点については原審が右二〇個の時計を重ねて被告人より没収したことは何等かの誤解によるものと云うの外はなくその不法であることは云うを俟たないところである。しかし、それではこのような場合所論の如く悪意の取得者の前段階者である被告人よりその価格相当額を追徴することが相当であるかどうかを考究してみるに、これらの時計は前記のように清水栄らが被告人から故買したものであるが、広島税関支署長が没収に該当する物件と認め関税法第一三八条第一項の規定に則り同人らにこれを納付すべき旨の通告処分をしたため、清水栄が同税関に納付して国庫に帰属したものを、同税関より本件の証拠物として任意提出したものであつて、同法第一一八条の見地からすれば臼井悟郎より押収提出された前示四個の時計とその性質においていささかも異るところがない。従つて若し右二〇個の時計が国庫に帰属していなければ当然本件において没収すべきものであることは前説示のとおりである。ところが偶々本件の場合は犯則貨物に対する関係において被告人の地位を承継した清水栄が前記通告処分の履行として該時計二〇個を納付しその所有権が既に国庫に帰属しているのであるから、犯則貨物を犯人(被告人)又は犯人より情を知つて取得した者(清水栄ら)の手中より剥奪しようとする関税法第一一八条の法意は本件裁判の事前に充分達成せられているものといわねばならない。

そして以上のように同じ関税法上の体系において裁判と異る通告処分と云う形式で国家が実質上当該犯則貨物それ自体を既に没収している場合は同条第二項にいう「没収することができない場合」には該当しないものと解すべく、従つて又追徴の問題が生ずる余地がないものと云うべきである。(昭和三三年四月一六日最高裁大法廷判決、判例集一二巻九二三頁、昭和三四年六月四日東京高裁刑事六部判決、高裁判例集一二巻六号六二四頁各参照)。

所論は関税法第一一八条第二項の「犯人」とは同法第一〇九条乃至第一一二条のいずれかの犯罪をなした者を汎称するものであつて、これらの犯人は第一一八条第一項一号該当以外の場合は総て没収か追徴のいずれかの一方を科せられるものである旨を強調し、たばこ専売法、塩専売法に関する判例を引用するのであるが、関税法第一一八条第一項二号の反面解釈によると、前記犯罪が行われた後犯罪貨物等を譲渡した場合においても、譲受人が情を知つている限り譲渡人たる犯人から当該貨物を没収し得るものと解すべきことは既に述べたとおりであり、ここにいう知情譲受人の中に同法第一一二条所定の故買者等を含むことは文理上異論がないものと考えられる。しかるにたばこ専売法(第七五条二項)、或は塩専売法(第五一条第二項)においては「前項の物件を他に譲り渡し、若しくは消費したとき、又は他にその物件の所有者があつて没収することができないときはその価格を追徴する」と規定し、犯人が没収すべき物件を他に譲渡した場合は、譲受人の善意悪意を問わず総て没収に替えて犯人からその価格を追徴する旨定めているのであつて、関税法第一一八条と法意を異にするから所論引用の判例は本件に適切でない。

なおまた所論は原審の見解によると、犯則貨物を転売した犯人の利得を無視する結果となり貨物又はこれに替るべき価格が犯則者の手中に存在することを禁止しようとする没収追徴の本来の意義を没却するのみでなく、同一貨物について転々犯則譲渡が行われた場合、先ず本犯又は前順位の犯則者が検挙裁判を受けるとすれば当然追徴の言渡を免れないところであり、後に至つて犯則貨物の所持者すなわち最後の悪意譲受人が裁判を受けるとすれば同人に対し没収の言渡があることも必然であるから裁判時を異にすることによつて首尾一貫しない結果を招来し不都合があると主張するのであるが、しかし没収追徴に関する関税法の規定がたばこ専売法或は塩専売法のそれと異る以上、犯則者の利得を看過する結果を来したとしても法の解釈上余儀ないところであるが、関税法第一〇九条乃至第一一二条の犯罪にはいずれも懲役刑の外罰金刑があり、しかも情状によつては両者を併科し得るのであるから、主刑の量定において考慮を加えるならば追徴によつて犯人の利得を剥奪するとさして径庭のない結果を得ることは必ずしも困難の業ではない。更に又同一の貨物について累次の犯則譲渡が行われ各犯人が時及び所を異にして裁判を受ける場合において各裁判の間に矛盾乃至不合理と思われるような結果が生ずることのあり得ることは所論のとおりであるが、犯則貨物の所在を十分追求して没収すべき物件を押収し当初の審理事件において証拠物としてこれを提出する限り右のような矛盾乃至不合理は避け得られるのであり、又一連の他の被告事件で既に没収を執行している場合においてはその旨を後に審理する裁判所に通告すれば足りるのであるのみならず、没収追徴は裁判時を基準として為すべきものであるから、仮りに所論の如き不合理ないし不都合が時偶生じたとしてもこれを以て関税法の前記法条の法意の解釈を変えるべきものではないから前記非難は当を得ない。なお所論((四)の(五))は執行面からして原審の見解を論難するのであるが(この点は本件に直接の関係はない)、所論引用のような事例は多数の共同正犯者間にも起り得る問題であるからこの点の所論はやゝ筋違いの感を免れない。

されば原審が広島税関支署に納付された前記二〇個の時計についてその価格相当の追徴を為さず、又原判示第二の犯罪組成物件である証第一九乃至第二二号の時計四個につきこれを没収してその価格を追徴より除外したことは結局正当と云うべきである。しかし原審が前示経過により既に国庫に帰属している前記証第一乃至第一八号の時計二〇個を重ねて被告人より没収したことは関税法第一一八条の没収の規定の解釈を誤つた違法を冒しているものであり、右違法が判決に影響を及ぼすことは明かであるから原判決はこの点において破棄を免れない。論旨はこの点に関する限りにおいて結局理由あるものと云わねばならない。

そこで刑事訴訟法第三九七条第三八〇条に則り原判決を破棄し同法第四〇〇条但書により直ちに判決すべきものとする。

原審の認定した各事実に法律を適用すると被告人の原判示各所為はいずれも関税法第一一二条に該当するところ情状により懲役及び罰金を併科すべく以上は刑法第四五条前段の併合罪であるから同法第四七条第一〇条第四八条第二項により懲役刑については犯情の最も重い原判示第一の罪の刑に法定の加重をし、罰金刑については所定罰金額の合算額の範囲内において被告人を懲役四月並びに罰金三万円に処すべく、懲役刑の執行猶予につき同法第二五条、罰金不完納の場合における換刑処分につき同法第一八条、押収の証第一九乃至第二二号の時計四個の没収につき関税法第一一八条第一項、追徴(原判示第二の犯罪にかかる時計のうち押収されていない男子用腕時計エニカ一個及び原判示第三の時計合計三一個の価格)について同法第一一八条第二項をそれぞれ適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 村木友市 裁判官 牛尾守三 裁判官 久安弘一)

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